ONLY ONE NAME

2021/12/01 12:00

このコーナーは、Boojilが描いたネームアートをお贈りした方に、直接会いに行き

名前の由来やその人の背景をご紹介するインタビュー連載です。

今回は、 ”paddlers coffee "(パドラーズコーヒー) の代表を務める、松島大介さんと加藤健宏さんを訪ねた。

paddlers coffeeは東京の幡ヶ谷、西原商店街の路地裏に位置するコーヒーショップ。
連日、お客さんが絶えずやってくる人気店。
カヌーに乗った男性がちょこんと乗っている、シックなアイアンの看板が目印。
お店にはギャラリースペースがあり、先日わたしはこの場所で個展を開催させてもらった。


店主の二人に、店名の由来を伺うと・・・
paddlers coffee という名の由来は「paddle out (パドルアウト)」から名付けたと話してくれた。

松島さんが学生時代を過ごしたアメリカのポートランド。
そのポートランドにある、コーヒー業界のサードウェーブの代表格 ”Stumptown Coffee Roasters”の
将来の展望を語ったインタビュー記事にその言葉はあった。

”paddle out = ゆっくり進もう”
コーヒー業界の先を行く人がその言葉を発していることに驚きつつも、納得した。
ゆったりと漂う波に身をまかせるように、ゆっくりとした時間を過ごせるような場所をつくりたい。
思い返せば、ポートランドのコーヒーショップには、赤ちゃんからお年寄りまで、国籍問わずいろんな人が集まり
コーヒーを片手に自由気ままにそれぞれの時間を過ごしていたという。
忙しない東京で、世代に関係なくいろんな人が集い、混じり合えるようなコミュニティは少ない。
コーヒーショップという場所がみんなの場所になることを願って paddle に s をつけて、”paddlers”と称した。
「みんなでのんびり、ゆっくりやっていこう。」そんな想いが込められている。

店の前には樹齢50年以上にもなる立派な桜の樹が佇んでいて、テラス席には青々とした植物が丁寧に植えられている。
楽しそうな誰かの笑い声、どこかの国の音楽が店内から聞こえてくる。
雨の日も、晴れの日も、この場所はお店に入る前から気持ちの良い空気が漂っている。
この場所で、paddlers coffeeはオープンして7年目を迎えた。
初めて、paddlers coffeeを訪れたのは、このお店がオープンした1年目。
夫に「素敵なコーヒーショップができたから、一緒に行こう。」と連れられて行ったのがきっかけだった。
店内に入ると、カウンターの中にいた男性に「Boojilさんですよね、一緒に東北でボランティアした松島です。」

忘れもしない、2011年に起きた東日本大震災。
わたしは東北にボランティアに出ていた。同じ宿舎にいた松島くんが、なんとお店の店主だったのだ。

聞けば、あの時参加したボランティアの経験から、あらゆる年齢、職種、立場にある人がいつでも来ることのできる
コミュニティを築きたいと、”コーヒー”をコミュニケーションツールに、友達でバリスタとして活動していた加藤さんと二人でお店を立ち上げたのだそう。

わたしはテーブル席に案内してもらった。
「ゆっくりしていってください。」そう声をかけてもらい、店内を見渡して、あまりにも素敵な雰囲気に息を飲んだ。
木をふんだんに取り入れた店内は、どこを見渡してもこだわり抜かれた家具やインテリアに囲まれている。
ひとつひとつ丁寧に作られたスツールや、カウンターは高級感があり、職人の技が光る逸品で、
ずっと触れていたいほど。

それぞれの席には必ず花瓶に赤や黄色の可愛らしい花たちが生けられていて、
自分が歓迎されているような気持ちになり、あまりの居心地の良さにため息が出た。
お店のBGMもまたこだわりが光っていて、店内に並ぶレコードから、とびきりの一枚をセレクトしかけてくれる。
アナログで音楽を聴くことが非日常になった今、良質なスピーカーを通して流れる音楽もまた
ゆったりとした時間と共に、じんわり身体に染み込んでくる。

ひとりで読書をする人、友達と会話をしている人、赤ちゃん連れのお母さんや
近所に住むご年配のご夫婦まで、いろんな世代の人がこの場所で過ごすことを楽しんでいるように見える。

お店の各所のこだわりも素晴らしいけれど、何より特別なのはスタッフのみなさんのコミュニケーション能力の高さにあった。
こちらが気張らず、自然体でいられるような配慮が隅々までいきわたっている。
「自分の家に友達を招いて、もてなすような接客を心掛けている。」そうだ。
本日のコーヒーは、フレンチプレスで丁寧に淹れる。香りはもちろんのこと、ほろ苦くてとても美味しい。
美味しいコーヒーは世に溢れているけれど、padders coffeeで飲む一杯は、この場所の空気をまとった特別な一杯だと思う。
アーティストが作る1点物のマグカップで飲めるのもまた、他にないサービスだと思う。

共に被災地のボランティアで活動していた知り合いが、会っていない間にこんなに素敵なコーヒーショップを開いていただなんて。

運命的な再会から、すっかりpaddlers coffeeのファンになって、わたしは何度も足を運び、松島くんと、加藤さんと少しずつコミュニケーションを深め、お店に併設されたギャラリースペースで満を持して開催した個展は、ありがたいことに連日多くのお客様にお越しいただき、大盛況を収めることができた。
地域に深く根付き、どんな人をも迎えてくれる心地よい、唯一無二のコーヒーショップ。
「なくてはならない存在」だと、常連さんが話してくれた。

誰もがみな、自分の居場所を探している。
オンライン化が進み、人と人との接点が取りづらくなった世の中で、特に忙しない東京は心の迷子になりやすい。
誰もがみんな、自分を迎えてくれる場所を求めていると思う。

paddlers coffeeのような、居心地の良い場所がいつでも自分を迎えてくれると思うと、きっとどんなに悲しいことがあっても
ふらっと立ち寄って、挨拶をして、良い音楽を聴いて、美味しいコーヒーと店主との何気ない会話に救われるはずだ。
ずっとずっとこの場所で愛され、続いて欲しい店。

そんな大好きな”paddlers coffee”に、ネームアートを贈りたい。
先述した通り、paddlers coffeeにはあらゆる世代のお客さんが集っている。
二人で漕ぎ出した船にみんなが乗ってきて、ゆっくりと漕ぎ出す。

”paddlers” の文字には、一文字ずつキャラクターに見立て、犬、帽子をかぶった松島くん、バリスタの加藤さん、寄り添うカップルに、語り合う老夫婦、お母さんと赤ちゃん、読書をする男の子、そして、大きな桜の木を描いた。

そして"coffee"という文字には、コーヒーを飲むお客さん、暖かく照らす太陽、花たち、店内で食べれる絶品のホットドックとマフィンを描いた。

青い海の上をコーヒーを飲みながら、ゆっくり進んで行く様子を一枚の絵のように仕上げた。
わたしたちはいつだってひとりでなんか生きていけない。温かな人と人との交流から、また何かが始まり繋がっていく。
こういうお店が近所にあったら、暮らしがもっと豊かになる。
お店という場所が持つ影響力は、想像以上に大きいはず。

黄色は、アイデアマンで常にエネルギーを放出している松島くんのイメージカラー。
青は、おおらかで優しくみんなを包み込む、凛としたイメージの加藤さん。

いつもはカラフルな作品が多いけれど、今回は少しだけスタイリッシュに2色に絞って描いた初めてのネームアート。
個人的にも思い入れのある一枚になった。

また、paddlers coffeeに遊びに行ける日をとても楽しみにしている。
paddlers coffee 
東京都渋谷区西原2丁目26-5
営業時間/午前7時30分〜午後5時
instagram  @paddlers_coffee/

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