ONLY ONE NAME

2021/10/01 12:00

このコーナーは、Boojilが描いたネームアートをお贈りした方に、直接会いに行き
名前の由来やその人の背景をご紹介するインタビュー連載です。

今回は、 柴犬の「マル子」ちゃんを訪ねた。

柴犬の中でも小型の”豆柴”と呼ばれる犬種のマル子ちゃん。

マル子ちゃんとの出会いは、今から10年前、友人がオーナーである、葉山の美容室 ”hana" のイベントで
私が開いた、似顔絵屋さんだった。

愛くるしい豆柴を連れて、遊びに来てくれたご夫妻が
今回のゲスト「マル子」ちゃんの飼い主である冨安さんご夫妻、通称トミーさんと、ちえさんだった。

トミーさんはグラフィックデザイナー兼、DJで、この葉山町を中心にお仕事をしていて
互いに描く仕事であったことと、当時、わたしも同じ名前の柴犬を実家で飼っていて「マル子」という名前をキーワードに意気投合。
優しいベージュの毛色、まるまるとした体つき、自分の愛犬と重なるポイントがたくさんあった。

お客さんと描き手という立場でありながら、愛犬の話に花が咲き、似顔絵を描き上げる30分程度の短い時間が
魔法をかけられたように、温かく楽しい特別な時間になったことを覚えている。

そんなマル子ちゃん、ちょっと苦手なことがある。
お風呂に入る瞬間が苦手で、湯船に浸かる間際に手足をばたつかせ、一生懸命動かす姿が「亀」のように見えるとSNS上で大バズり!!!
あれから会っていない間の数年で、瞬く間に、世界に11万人ものファンを持つアイドル犬へと成長していた。
https://www.instagram.com/tommyrts/そんな「マル子」ちゃんの日常の写真を、INSTAGRAMで紹介しているのが飼い主のおふたり。
寝顔から怒り顔、笑顔と、喜怒哀楽がしっかり伝わる変貌ぶり。その表情は”犬”というより、ひとりのこどものようにも見える。
その写真の数、様子から、マル子ちゃんがとても愛されている様子が伝わってくる。

ご夫妻は神奈川県の自然豊かな葉山に暮らしている。
マル子ちゃんを飼い始めたのは、今から10年前の震災の年、2011年に遡る。
年明け、16年住んだ茅ヶ崎から、ふたりで葉山に引っ越しをした。

葉山に引っ越した当時は、まだサラリーマンで、企業のブランディングや販売促進関連のデザイナーとして、お仕事をされてたいたトミーさん。

2011年2月に退職。その2週間後に東日本大震災が起こる。
誰もが不安を抱えていた時期に、トミーさんもまた、フリーランスに成り立てでこれからの仕事がどうなっていくかわからない渦中。
これまで出勤スタイルで家を不在にしていた夫が、フリーランスになった今、自宅にほとんどいるようなった。

なんとかして仕事を成り立たせたい。フリーランスとして、主人として、頑張らなくては・・
今まで以上に仕事に没頭するだろう・・・"家"という同じ空間にいたとしても、
もしかしたら、妻にいろんな意味で寂しい想いをさせてしまうかもしれない。

夫婦の”潤滑油”になるような、そんな存在がいたらいいなあ・・。
そんな時、トミーさんはちえさんとって、もうひとりの相棒のような存在になればと、犬を飼うことを提案した。

それから数ヶ月後、ご縁あって出会ったのが、当時まだ子犬のメス犬「マル子」ちゃんだった。
胸に抱いた瞬間、心がときめいた。この子がいい!と意見が合致したのだそう。

名前の由来を聞いてみる。
「豆柴だから、洋風な名前じゃなくて和風な名前がいいね。と、話していて。」
ある日、「丸(まる)」って名前がふと降りてきて
繰り返し言葉にしてみると、「まる」って言葉はやわらかくて、かわいらしい。
女の子だし「マル子」にしようと、すっと名前が決まった。

国民の誰もが知るアニメ”ちびまる子ちゃん、「マル子」という名前だったらきっと愛されるだろう。

「マル子」と名付けられた豆柴の赤ちゃんは、こどものように深い愛情を注がれ
名前の通り、まるまるとした愛らしいフォルムの成犬になった。
トミーさんとちえさんが彼女に触れる時の笑顔はとても穏やかで、見ているこちらまで幸せな気持ちになる。

マル子ちゃんを飼い始めてからというもの、可愛がってくれる人が町にも増え
顔見知りから、友達、近所の方から観光客まで、海沿いで散歩をするたびに
「マル子ちゃんですか?」と、声をかけてもらえるようになったのだそう。

「マル子のおかげで本当にたくさんの出会いがあった。」とトミーさん。

その縁つなぎは、プライベートだけでなく、トミーさんの仕事にも良い影響を与えている。フリーランスになってから、もともとのお付き合いやこれまでの経験から、デザイナーとして仕事は充実したものではあったけれど、従来のクライアント以外に、マル子ちゃんのファンの方からも、デザインの仕事の依頼がくるようになったというのだから驚きだ。

人とのご縁を生むだけでなく、ご主人の仕事までをも作り出している、マル子ちゃん。
葉山という土地にやってきてからというもの、外に出る必要がないくらい、この町で暮らしも、仕事も整うようになった。
彼女を家に迎えてからというもの、人生がさらに豊かなものになったと教えてくれた。

ペットと飼い主、という関係性ではなく、マル子ちゃんとご夫妻は、ひとつのチームのようだ。
名前の如く、” マル=丸 ”で繋がっていて、かけた分の愛情が、人とのご縁を紡ぐ力となり返って来る。
その輪がぐるぐると回り続けて、家族の形をつくっている。

トミーさんと、ちえさん、そしてマル子ちゃんを見ていると
深い愛情さえあれば、血が繋がっていなくても、例え人間と動物という立場でも、
”家族”という形をしっかりと築くことができるのだなあと思う。
無償の愛を注ぐことができる相手は、まさに大切な家族のひとりだ。

家族の一員となった、マル子ちゃんにネームアートを描かせてもらった。

「マ」という字には、葉山といったら、美しい海!その海でサーフィンを楽しむマル子ちゃん。
「ル」には、大好きなレコードを手に持つ、トミーさんと、愛情たっぷりハートを抱えるちえさんを描いた。
「子」という字には、散歩が大好きなマル子ちゃんを想って、優しい光を放つ太陽と、草花、集まる蝶を選んだ。

この絵に描いたような、丸い太陽のような温かな存在として、マル子ちゃんがずっとふたりを照らしてくれますように。


プロフィール
冨安 修一 Shuichi Tomiyasu
Design & Air Conditioning Music “SANKOFA” 主宰
マル子ちゃんの飼い主さん

神奈川の海沿いエリアを中心に多くのブランドやショップのロゴ、SPツール、パッケージなどを制作。 葉山芸術祭や逗子海岸映画祭、さらに神奈川以外の地域のイベント等のグラフィックデザイン担当での参加経験も多い。
またDJ Tommy Returntablesとしても1990年代より長く活動しており、アーティストのCDやフライヤー等デザイン作品も多数手がけている。
 
1969年 長崎生まれ 北海道育ち
1989年 Space Shower TV 開局前よりセット等のデザイン制作で参加。
1991年 武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。
2011年 SP広告代理店(株)システムコミュニケーションズに20年勤務し退職。
2011年 11月11日にDesign & Air Conditioning Music “SANKOFA”を葉山にて開業。

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